そこのけ そこのけ 私がとおる

 「独裁」を徹底して攻撃してきた自由の国アメリカで、独裁者が闊歩している。
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 アメリカ、ミネアポリスで、ジョージ・フロイドという黒人男性が警察官によって膝で首を「8分46秒」も圧迫され続け、死亡するという事件が起きた。「息ができない」と叫ぶフロイドさんの声を含め、一部始終が動画に撮影され、全世界に拡散され抗議の集会やデモは瞬く間に全米に拡大した。

それに対して、トランプ大統領の取った行動は、なんと警官の暴走をとがめるどころか、例のツイッター砲で、デモ隊を「悪党」とののしり、「略奪が始まれば銃撃も始まる」とツイート、さらに「もし市や州が住民の生命と財産を守るため必要な行動を拒否するなら、私が合衆国軍隊を投入して、代わりに問題を速やかに解決する」と軍隊の投入まで口にする始末。

子どもじみた行動はさらにエスカレート、6月1日には、ホワイトハウス北側にあるラファイエット広場前の通りで数百人の市民が平和的に集会をしていたのに対し、午後6時半過ぎ、突然、警官隊を投入、横一線に並んで盾を突き出し、催涙弾を発射しながら市民の排除を始める。市民の側に暴力的な行動も挑発的な行為もなかったにもかかわらず、催涙ガスまで散布され、強制的に排除。そこにトランプが登場、ホワイトハウスのローズガーデンで声明を読み上げたあと、広場向かいにある「大統領の教会」といわれる歴史的教会、セント・ジョン聖公会教会まで「そこのけ、そこのけ 私が国家だ」とばかりに闊歩したのである。その時の写真。

このあと教会前でトランプは聖書を掲げて、テレビカメラの撮影を行わせた。あとは教会に立ち寄るわけでもなく、ただ映像・写真を撮らせるためだけの訪問だった。まさに大統領選挙に向けたパフォーマンス。あきれてものが言えない。

暗澹たる思いでいたら、憲法学の早稲田大学水島朝穂先生が、トランプのもとで国防長官を務めたジェームズ・マティスがトランプは「アメリカの価値に対する脅威だ」と投稿していることを、ご自身のホームページ「平和憲法のメッセージ」で紹介してくれた。

さすが自由と民主主義を統合の土台としてきたアメリカ、国のリーダーが自国民の間で対立を煽り諍いを助長するのをみて、堪忍袋の緒が切れたと言わんばかりに発言、それがまた格調高い。日本では、自分の気に入った検察官を定年延長しようとする検察庁法の改正に対し、元検事総長らが絶対王制時代のルイ14世の言葉とされる「朕は国家なり」を彷彿とさせると異議を唱えたが、それと重なった。

格調高い文章をどうぞ。


ジェームズ・マティス「団結ユニオンこそ力なり」(訳:望月穂貴)

 

私は今週に繰り広げられた出来事を目の当たりにして怒りもしたし、ぞっとした。「法の下に等しい正義」(Equal Justice Under Law)という言葉が連邦最高裁のペディメントに彫り込まれている。これこそがまさに抗議している人々が要求していることである。これは健全なる、〔国の〕団結に関する要求である――我々全てが支持できるはずである。我々は少数の法律違反者へと目をそらされてはならない。これらの抗議〔の主張〕は何万もの良心ある人々、すなわち我々の価値――我々の人民としての価値、我々の国としての価値――に恥じないように生きるということを断固として主張する人々によって、明らかにされているのである。

50数年前に私が軍に入隊した時、私は合衆国憲法を支持し擁護するという宣誓をした。同じ宣誓をした部隊が、いかなる状況であれ、同胞市民の憲法上の権利の侵害を命じられるなどとは夢にも思わなかった――まして選挙で選ばれた最高司令官のために、軍指導部を並べて奇妙な写真撮影の機会を設けるよう命じられるとは。

我々の都市を「戦場」だとみなし、制服軍人が「占領」のために召集されるなどといういかなる考えも、退けなければならない。国内では、軍を用いるのは、きわめて例外的な状況において、州知事にそのように要求された場合だけのはずである。我々の対応を軍事化すれば、ワシントンD.C.で目撃されたように、軍と市民社会とに衝突――偽りの衝突――を作り出すことになる。このような対応は、制服を着た男女と、彼ら彼女らが守ると誓い自らもまたその一員である、社会との間の信頼の絆を確保するための道徳的基盤を蝕む。公衆の秩序を保つことは、文民たる州及び地方のリーダーたち、つまり、もっとも良くその共同体を理解し、共同体に責任を負う人々に委ねられている。

ジェイムズ・マディソンは、フェデラリスト第14篇において、「一握りの兵しかなくても、あるいは一兵もおらずとも、統一されたアメリカは、統一されずにいるが10万の熟練兵を有し戦闘への備えあるアメリカよりも、外国の野心を阻止する断固たる姿勢を示すことになる」と言った2。我々は抗議への対応を軍事化する必要はない。我々に必要なのは共通の目的のもとで団結することである。そしてこのことは、我々すべて法の下に平等であるということを保証することから始まるのである。

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ノルマンディー上陸に先立って軍当局から部隊に与えられた指示は、兵士たちに「我々を打ち破るためのナチのスローガンは『分断せよ、しかして征服せよ』であった。我らアメリカ人の答えは『団結こそ力なり In Union There is Strength』である」と注意を促すものだった。我々は今般の危機を乗り越えるためにこのような団結を呼び起こさなければならない――我々は、我々の政界politicsよりも善良であるという自信をもって。

ドナルド・トランプは、私の人生の中でアメリカ人民を団結させようとしなかった――努力するふりすらしなかった――初めての大統領である。そうではなく、彼は我々を分断させようと試みている。我々はかかる意図的な試みがなされた三年間の帰結を目撃している。我々は、分別あるリーダーシップを欠いた三年間の帰結を目撃している。我々の市民社会に内在する様々な強さに依拠することによって、我々は彼なしで団結できる。過去数日間に示されたように、団結は簡単なことではない。しかし、我々は、団結する義務を同胞市民たちに対して負っている。我々の約束を守るために血を流した過去の世代に対して。そして我々の子どもたちに対して。

目的意識を新たにし、互いを尊重することによって、我々はこの試練の時を力強く乗り切ることができる。〔COVID-19の〕パンデミックによって示されたのは、共同体の安全のために進んで究極の犠牲を供するのは軍だけではないということである。病院でも、食料品店でも、郵便局でも、いずこでもアメリカ人は、その命を前線に投じ、同胞市民と自らの国に奉仕した。我々は、ラファイエット広場で目撃されたような執行権の濫用よりも我々自身が善良であると分かっている3。公職の座にあって我々の憲法を嘲笑するような人たちを退け、責任を果たさせなければならない。また、団結に努めるにあたって、我々はリンカンの「よりよい天使たち」を思い出し、耳を傾けなければならない。

新たな道筋――つまり、我々の建国の理念という道筋に立ち戻る――をとることによってのみ、内外で賞賛され尊敬される国になるだろう。
原文:Jeffrey Goldberg, James Mattis Denounces President Trump, Describes Him as a Threat to the Constitution, The Atlantic, June 3, 2020.

(2020年6月4日訳)

交通崩壊を防がなきゃ

2020-06-07 17.29.55

新型コロナウイルス感染症の拡大と政府による自粛要請によって、公共交通が存続の危機に瀕しています。今コロナ対策のための国の2次補正予算が議論されていますが、使い道を定めることができない10兆円があるなら、公共交通の維持のために急ぎ手立てを講じていただきたいと思います。

今日15時からありました「交通崩壊を防げ!」と題したオンラインセミナーを視聴しました。移動の自粛要請によって、4月だけで航空や新幹線などの都市間交通は対前年同月比で約9割、都市内鉄道・バス等は約6割減少したといいます。

セミナーを開催した「日本モビリティ・マネジメント会議」が行った緊急アンケートでは、交通事業者の半数が8月中旬ごろまでに事業継続が困難になると回答があり、まさに「交通崩壊」の危機にあります。政府による交通網の維持、特に地方の交通の維持するために待ったなしの状況です。

政府は、事業者一般への支援策としては各種助成金等による経営支援策を打ち出してはいます。でも、公共交通事業は固定費が占める割合が非常に大きく、急激な需要の変化に追随しにくい、また人々の移動を支える公益性から運行を大幅に減らすことはできないなどにより、支援策がかみ合っていません。

政府にはこの悲鳴がなぜ届かないのでしょうか。「日本モビリティ・マネジメント会議」の試算によれば、3.5兆円あれば公共交通は維持できると主張しています。政府は、こうした声に耳を傾け、公共交通を「突然死」させない、コロナという津波にさらわれて地域の足がなくなってしまったとならないよう、急ぎ支援策を具体化させるべきです。

また、この会議が提唱していることのもう一つとして、あまりにも公共交通のリスクが高いと人々が思い込んでいることが、緊急事態宣言が解除されても、利用が伸びない大きな要因として指摘しています。本来のリスクの何倍も危ないと思い込んでしまっている、正しいリスクの認識が持てるようにするのも重要なポイントだとメッセージを出されています。ぜひ参考にしてください。

2020-06-07 15.31.50

 

 

 


まいだ晴彦・オフィシャルサイト